2019年02月23日

「マイ・フェア・レディ」初公開時「映画の友」広告

「マイ・フェア・レディ」初公開時「映画の友」広告 今回は「映画の友」1964年12月号の裏表紙を紹介しながら、そこから見えてくることを書きたいと思います。

 今回本誌全部ではなく裏表紙だけっていうのは、既に切り抜いていてこれが単体でしか残っていないから。
 中身にも「マイ・フェア・レディ」はいっぱいあったと思うのですが、それらも切り抜きになってしまっているので、どれがこの号かがわかりません。

 12月号ということは1964年10月21日発売ですね。
 そして「マイ・フェア・レディ」が日本初公開されたのが12月1日。

 この広告の下の方にも書かれていますが、日本で最初に公開したのは東京の有楽座と大阪梅田のスカラ座と大阪難波の千日前スバル座の3館。
 その後12月26日に名古屋毎日ホール大劇場と福岡スカラ座と札幌の松竹座で公開されることになっています。
 そしてそのあとに日本各地の都市の東宝系の一番大きな劇場で上映されたと思われます。

 なので、1965年3月号(1965年1月21日発売)に付いていた人気投票の締め切りまでに見ることが出来たのは上記東京・大阪・名古屋・福岡・札幌とその周辺の都市(東京なら横浜・千葉、大阪なら神戸・京都など)だけだったと思われますが、それでも「マイ・フェア・レディ」は読者の人気投票で「スクリーン」では第3位、「映画の友」では第4位。オードリーは両誌ともに第1位になっています。ものすごい人気だったんですね。

 今は映画は日本全国で同時に上映スタートするので若い方などは知らないかもしれませんが、昔は映画はまず東京の銀座・有楽町周辺の各映画会社の最も格の高いチェーンマスターの映画館で上映された後、各都市に降りて行く、という形態が普通でした。

 “ロードショー”という言葉も、今では映画の封切りだと思われていますが、昔は文字通りロードを行くように順々に公開されることを意味していました。
 まず東京のチェーンマスターの映画館で動員数などを確かめて、それから地方でどういう規模や映画館で上映されるかが決定されていました。

 もちろん昔から例外は有って、「ローマの休日」の日本で最初の封切りは佐世保富士劇場だったり、「緑の館」は東京よりも大阪の方が早かったとかっていうことはあります。

 さて1965年のお正月映画で最も期待の超大作「マイ・フェア・レディ」ですが、最初の封切りが東京は有楽座だけなのに対して、大阪は梅田のスカラ座とミナミの千日前スバル座の2館…。

 不思議ですねー。1965年の国勢調査では東京677万人に対して大阪は人口のピークだったそうですが、それでも316万人。ほぼ倍の差があります。
 普通で考えたら東京2館、大阪1館と逆でも良さそうですよね〜。
 …とこれでわかるのが実は大阪の事情。

 関西以外の方はわからないかと思いますが、実は大阪には2つの顔があります。

 1つは「秘密のケンミンshow」などのテレビ番組でイメージされるようなコテコテの大阪人(関西全体ではないので、あえて関西人とは書きません)。
 それは実はミナミと呼ばれる難波や天王寺を中心とした地域。

 そしてキタと呼ばれる大阪駅や梅田駅の周辺は実はオシャレで垢抜けているイメージ。
 最近は特に大阪駅周辺の再開発が進み、京都や神戸からも多くの人が訪れているように、さらに洗練の度合いが高くなってきました。

 今でこそ神戸からは阪神や近鉄1本で難波まで行けるようになりましたが、昔は神戸・芦屋・高槻・京都などの北側の都市からミナミへ行く為には、大阪駅で地下鉄に1度乗り換える必要があったので、よっぽどのことがない限りミナミには出ないことが多かったです。

 そんなこともあって、東京には結束して対抗しても、大阪の中では譲れなかったのかなーと思います。それでなぜか大阪では2館。

 その大阪での上映館も、梅田スカラ座は東宝の直営、千日前スバル座はオーエス映画株式会社という別会社。

 1500席を超える北野劇場などを有する東宝と、シネラマも上映出来た超巨大劇場のOS劇場を有するオーエス。
 どちらも65年最大のお正月映画「マイ・フェア・レディ」を譲れなかったのでしょうね。

 ただ、東宝もOSも阪急電鉄や阪急百貨店、宝塚歌劇団などを作った小林一三氏の創設です。

 小林一三氏といえば、娘はサントリーの創業者の所に嫁ぎ、さらにその息子はサントリーの会長に。息子の娘(孫)は三菱グループ幹部と結婚、息子や孫は東宝や宝塚歌劇団の歴代の社長や会長を歴任、さらにひ孫には松岡修造氏がいると言う、文字通り華麗なる一族。

 さてそんな大阪2館という、一見無駄に思える上映でしたが、このおかげで有楽座と大阪スカラ座はアメリカ版の豪華「マイ・フェア・レディ」のパンフレットの翻訳版が劇場で映画パンフレットとして売られましたが、千日前スバル座ではこの時期にはすっかり廃れていた劇場オリジナルの映画パンフレットが制作されました。
 これがめっちゃ貴重!オードリーの作品で最も入手困難な映画パンフレットの1つになっています。

 なおwikipediaでは東京の日比谷スカラ座のところに1964年に「マイ・フェア・レディ」が上映されたことになっていますが、もちろんいつも通り大間違い。
 初公開時のスカラ座は大阪の梅田スカラ座。

 おそらく「マイ・フェア・レディ」の映画パンフレットで“スカラ座”と書かれたものがあるから適当に書いたのでしょうが、それは1974年・1977年のリバイバル時の時の物。1964年には日比谷スカラ座では上映されていません。

 ついでに言うと、1965年のところに書かれている「サウンド・オブ・ミュージック」も1965年に日比谷スカラ座では上映されてません。
 「サウンド・オブ・ミュージック」は初公開時は松竹系の上映で、丸の内ピカデリーが正解です。日比谷スカラ座での上映は1970年のリバイバルの時。

 当時の資料、および東宝の公式サイトでもきちんと「マイ・フェア・レディ」は有楽座で上映されたことになっています。
 だいたい、70mm映画の上映は当時機材があった有楽座でしか無理なはずです。本当にウィキペディアは間違いが多いですねー。


※この記事を読んでいただいたtakeさんにWikipediaを訂正していただきました。
 現在は日比谷スカラ座の欄の64年からは「マイ・フェア・レディ」が、65年の所からは「サウンド・オブ・ミュージック」が削除されて、リバイバルの年に移されています。ありがとうございました!



同じカテゴリー(マイ・フェア・レディ)の記事
 “心躍るミュージカル映画”「マイ・フェア・レディ」上映 (2024-03-31 21:30)
 「シャレード」公開60周年、“スクリーン”1964年1月号 (2023-12-10 20:00)
 1990年 帯広シネマアポロン版 “ヘプバーンの魅力” ポスター (2023-09-23 12:00)
 「スクリーン」1963年8月号 (2023-06-25 08:00)
 「マイ・フェア・レディ」高槻アレックスシネマ ビラチラシ (2023-05-22 21:00)
 「マイ・フェア・レディ」あと1週間、応援記事「映画の友」切り抜き (2023-05-04 18:00)

この記事へのコメント
なんと、いつもながらに濃厚な情報ですね。ありがとうございます。

マイ・フェア・レディの東京の封切りが
日比谷スカラ座ってことはないだろうなあ。

子供時代のかすかな記憶の中でも
大入り必至の大作は有楽座か日比谷映画という印象が強いです。
有楽座のスクノーン、でかかった。(笑)

巨大看板が連なる日比谷映画街は懐かしい思い出ですが
オードリーの作品を観ていないのが残念。

話は変わりますが、スタンリー・ドーネン監督の訃報に接しました。
パリの恋人、シャレード、いつも2人で...
みつおさんも、また書きたいことが増えたんじゃないですか?
Posted by wimpole at 2019年02月24日 19:48
そうですね、日比谷スカラ座でのオードリーの初公開作品は「パリの恋人」「ティファニーで朝食を」「パリで一緒に」「おしゃれ泥棒」「ロビンとマリアン」なので、確かに「マイ・フェア・レディ」とかと比べると小粒感はありますよね。

同じチェーンマスターでも、日比谷スカラ座は3番手くらいなのでしょうか?

ただ、同じくチェーンマスターの日比谷映劇では「ローマの休日」「麗しのサブリナ」がありますが、「尼僧物語」も有るんですよ。
当時でも渋いと言われていたのに、それでも大ヒットすると思われたんでしょうか?

さらには有楽座では「マイ・フェア・レディ」の他には「緑の館」が有ったので、アメリカでも大コケしてた「緑の館」、なぜ有楽座だったのでしょうね。
パナビジョンだったから?当時大人気のオードリーとアンソニー・パーキンスの共演だったから?あるいは当時の映画雑誌でわかるんですが、「緑の館」公開に合わせてオードリーが来日する予定だったから、マリリン・モンローの来日時みたいに大フィーバーが起こると見越していたのでしょうか?
当時の東宝の方に伺いたいくらいですね。

それとスタンリー・ドーネン監督の訃報!!
またまたショックです…。
こないだ「いつも2人で」をやったばかりだし、年末に「パリの恋人」もやっているので、今回は「シャレード」で記事を起こさないといけないですね。
Posted by みつおみつお at 2019年02月25日 22:41
みつおさん、こんにちは。
3月10日にNHK BS8Kで8K版「マイ・フェア・レディ」が放送されますね。オリジナルネガから8Kスキャンしてフィルムの傷や汚れをデジタル修復した最高画質とか。4Kレストアしたブルーレイも高画質でしたが、それを遥かに上回る想像を超えた画質になるのでしょうね。
ところが残念ながら8K視聴するのはハードルが高すぎ(8Kテレビや8K用のBSアンテナの導入などの費用で100万以上かかるそう)て実際には視聴は無理ですね。せめて8K版をご覧になった方の感想だけでも教えていただけたら嬉しいなぁ。
Posted by 時雄 at 2019年02月28日 20:52
時雄さん、こんばんは!(⌒‐⌒)

8K版「マイ・フェア・レディ」ですか!
僕には8Kどころか、まだ4Kも視聴する環境に無いのでどんななのでしょうねー!
4Kと同じ方向性だと黒潰れが気になりますが…。あとあまりに濃いと、オードリーのシワまで映ってしまいそうです。
8K版の劇場リバイバルとか有ればいいですね!

でもオードリーでは最初に「マイ・フェア・レディ」とは、やはり映画の重要度が「マイ・フェア・レディ」が非常に高いということでしょうね~。
Posted by みつおみつお at 2019年03月01日 21:18
ウィキペディアの問題の日比谷スカラ座の箇所ですが、とりあえず訂正しておきました。ご覧くださいませ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%AE%9D%E5%A1%9A%E5%8A%87%E5%A0%B4#%E6%97%A5%E6%AF%94%E8%B0%B7%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%A9%E5%BA%A7
Posted by take at 2019年03月02日 00:18
takeさん、こんにちは!

いつもウィキを直していただいてありがとうございます!
確認してきました。これでまたひとつホッとしました(*^^*)
Posted by みつおみつお at 2019年03月02日 13:22
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。