2007年09月29日

大愚作!「誰も書かなかったオードリー」吉村英夫著

大愚作!「誰も書かなかったオードリー」吉村英夫著 これは2001年に講談社+α文庫から発行された、吉村英夫著「誰も書かなかったオードリー」です。例によって、著者のひとりよがりな思い込みと決め付けで構成された、出来の悪いオードリー評論に仕上がっています。

 “読んでいただければわかるが、私はヘプバーンのファンであるし” と自分で思い込むのは勝手ですが、オードリーのファンはこれを読んでもそうは感じません。これを読んでわかるのは、著者は「ローマの休日」ファンである、ということだけ。

 この著者は何度オードリーのことを書いても、オードリーの本質を見ていないから出来上がる著書に大差なし。とっても偏っています。

 本文が始まる前に、わざわざ注意書きで“撮影されたのは前年のことが多く”と書いていて、しかも「ローマの休日」が52年に撮影されているのもわかっているのに、第16章では製作年の“53年「ローマの休日」、オードリー24歳”と書いてしまっていて、首尾一貫してません。

 また、既にバリー・パリスの伝記は発売後にもかかわらず、きちんと読まなかったのか、ダイアナ・メイチックの嘘伝記も使用してて、オードリーは拒食症扱い。たしか息子ショーンがメイチックの伝記で一番怒ったのが拒食症にされていた部分だったはずです。

 オードリーの本を書きながら調べてないことが多く、不十分な記述も多いです。
 たとえば「初恋」は日本では1966年と1993年と2度も劇場公開されているのに、オードリー没後にビデオ化されただけだと思い込んでいる様子。(メイチックの本の訳者あとがきを鵜呑みにしている。)
 しかもそこで使用している画像は例のポスターで使用された「パリの恋人」オードリー。

 オードリーのファンだったら、昔の資料も調べよう(特にオードリーの評伝を書くなら)、って普通考えると思うんですよね。

 「初恋」のことなど、70年代に発売された芳賀書店のシネアルバムデラックスカラーシネアルバム、雄鶏社の「カタログ オードリー・ヘプバーン」をちょっと調べればわかるんですが、原著が海外の最近の資料だけ調べて、国内の資料は調べず。

 おそらく自称“オードリーのファン”になったのが「ローマの休日 ワイラーとヘプバーン」以降だと思うし、オードリーの画像なんかには興味がないのか、そういう写真集的な資料はお持ちじゃないんでしょうねー。
 
 ま、でもメイチックの伝記なんかを出典に使うようじゃ、バリー・パリスの伝記も斜め読みしかしてないのが丸わかりですし、日本の資料をお持ちだったにしてもきちんと見てくれるでしょうか?

 「ローマの休日」では大好きな赤狩りとの関連でまた述べていますが、それを“忘れてはならない”と押し付けられても…。「ローマの休日」はもっと気楽に楽しんでもいい作品なんじゃないかなー。

 「麗しのサブリナ」はリメイクされた「サブリナ」を観て、考えが変わった様子。“失敗作だと評価するのは間違いだと思う”…って、「麗しのオードリー」という本で失敗作だと決め付けてたんはあんたや!みたいな。

 「ティファニーで朝食を」では、やはり著者がオードリーを見ていないのを露呈します。
 どうにもこうにもこの作品が代表作だと言われるのが理解できないので、オードリー=変身物語の鋳型に入れようとする著者のあがきがとっても見苦しい。
 前作「麗しのオードリー」から一歩も進んでない著者の見方がわかります。

 これでは「ティファニーで朝食を」でオードリーという個性を最大限に生かしたのをわかるわけもなく、オードリーは「ローマの休日」だけの女優に矮小化されるばかり。
 「ティファニーで朝食を」~「マイ・フェア・レディ」の第3期はオードリーの個性の輝きを見なきゃ!って思うんですけどねー。

 映画全体で徹頭徹尾シャレのめした娯楽映画の傑作「シャレード」はこれまたヒドイ扱い。
 “オードリー映画の(←これ、間違い)、そしてドーネン監督の最大のヒットとなったが、作品の質と興行成績は正比例しないようである。”…ひっ、ひどすぎる!

 志が高い映画が良い作品→娯楽作品だからそんなに気に入らない=出来がよくない

という極めて身勝手で偏狭な考え方が、映画評論家として名乗るには全然ダメ。

 「シャレード」をこんな程度でしか捉えられ無いんです、ってことはオードリーを語る資格なんかないです、ってことを自分で宣言しているようなもの。
 自分はこう思うけど、世間的にはいかに「シャレード」が高評価を受けているかっていう説明すらなし。

 以前、僕のエッセイの方のBBSに“自称大学生”というおそらく小学生か中学生が“「シャレード」は出来がよくない”って書き込んだことがあって、そのあまりに偏った(間違った)考えに、管理人のTYさん・友人のカリンさん・僕がびっくりしたことがありました。
 なぜそう思ったのか尋ねたところ、その考えの元になった1つがこの本だったこともあって、全員絶句したものです。これはもう若い子には見せてはいけない悪書ですね!

 それと、著者はこの作品をオードリーじゃなく、ケーリー・グラントが変身する“逆変身物”としています。でもなんかこの理論はおかしい…と思っていたら、このブログにも来ていただいている入間洋さんのHPでこの点を的確に書いてくださっています。

 そう!ここでのケーリー・グラントは全然変わらないんです!入間さんの文章を引用させていただくと(許可いただきました)、「この映画はアイデンティティが一貫してケーリー・グラントであるような映画」という、グラントがケーリー・グラントであり続ける作品が「シャレード」なんですね。

 名前はコロコロ変わるけど、ケーリー・グラントはずっとおんなじ。衣装も演じ方もキャラクターも変わらない…。実は変わっていくのは、グラントが名前を変えたことによって疑心暗鬼になるオードリー演じるレジーと観客の観念の方なんですよね。それでも逆変身物?

 「おしゃれ泥棒」では監督がウイリアム・ワイラーゆえの何かを見つけようと必死。で、それがビデオ鑑賞では見つからないからと“ワイラー老いたり”で片付けようとしている。

 実はこれ劇場で観るとパナビジョンの左右の大きな画面に、物置での縦に超細長い画面という対比をなしてたり、とそれなりの画面の工夫はあるのに、ビデオで見て全く気づかず。
 それに、ワイラー作品だからって、純粋に楽しめないのかな~って。「おしゃれ泥棒」って完全に娯楽作品なので、まあこの著者には理解できないのかもしれませんが…。

 「いつも2人で」はもう全然わかってない人の見方丸出し。もともと著者はオードリーを見てない人だから、「パリの恋人」「シャレード」「いつも2人で」とオードリーの個性を一番上手に引き出したドーネン監督の作品をよくわからないんでしょうけどね。

 “ラストでとってつけた再出発の誓いをするが、夫婦の将来を信じるものは一人もいないだろう。”
って、えーーっ!!!
 確かに「いつも2人で」は見るたびに見方が変わる作品だけど、最初に見た小学校時代から、そんな風に感じたことは1度もなかった!むしろ著者のような見方をするほうが珍しいというか…。

 いくつかの伝記で、脚本家のラファエルが“ラストで逆の意味に取られかねないので脚本を変えたが、オードリーの本読みの素晴らしさで最初の稿に戻った。”と言ったと書いてあるんですが、見事に吉村氏はその逆の意味で取ってしまったわけですね。オードリーの名演も意味なしだし~。

 それに「いつも2人で」が「噂の二人」と双璧の暗鬱な映画ですと。盛り上がりに欠け、情緒も醸し出せなかった映画と決め付けられました。
 あー、ほんとこんな見方しか出来ない人にオードリーを語って欲しくない…。

 「ニューヨークの恋人たち」では、“老いを「老醜」と受け止めるのは間違いである。”と図々しくも書いてますが、「麗しのオードリー」という本でそう書いていたのは自分やん!
 いったい何なんでしょうねー、この著者!

 ただ、その考えにのっとって、「麗しのオードリー」では“老醜をさらす”と書かれていた「オールウェイズ」の出演に関して、“よかったと考えたい”と態度が変わっています。

 それと、僕もオードリーを神格化はしようとは思っていないけれど、この著者のいつもながらのオードリーの“卑俗化”にはびっくりします。

 どの伝記でも、オードリーはお金に執着したということは書かれていないのに、この本の中では、何度も何度も“オードリーが金のために動いた”的勝手な決めつけ文章が出てきます。
 もう本当に金金金金。オードリーは金の亡者か!といいたくなるほど。これも著者の勝手な思い込みで文章が構成されてて、これでどこがオードリーファンやねん!状態。

 それに、オードリーが家財道具一式と移動したことはいろんな伝記でも述べられていますが、そこでわかるのは“移動の多いホテル暮らしでも、オードリーはなんとかメルとの家庭らしさを出そうとしていた。”ということ。

 家族を大事にするオードリーの行動としては筋が通ってるし、僕なんかは納得してるんですが、この著者はそれを“備え付けの家具では満足できない、他人の手が触れたものは承知できない。”と解釈して、スターのわがまま、贅沢し放題、“矛盾だらけの経済観念”となってしまう。

 愛犬フェイマスの話でも、そのかわいがり方に虚飾をほどこして“女王様の気まぐれ”という扱いでさらにオードリーを低俗化。「尼僧物語」のコンゴロケにも連れて行ったのをフレッド・ジンネマン監督が“苦々しく見ながら”と勝手な形容詞を追加してオードリーをこれでもかとおとしめる。

 フレッド・ジンネマン監督は自伝でもオードリーに対して非常に敬意を払いこそすれ、そんな苦々しく思ってたなんてこと、どこにも書いてないんですけどね。

 いくら聖者でないと言っても、この扱いはヒドイんじゃないの?こんな考え方しかできないの?って感じ。著者の低俗な考え方に、オードリーを押し込めようとしてもねー、みたいな。

 さらには、アンドレア・ドッティとの結婚式でのオードリーのピンクミニの衣装にもケチをつけてます。
 “痛々しい足が興ざめ”“媚びを売る衣装”“勘弁していただきたい”
 あのピンクの衣装はオードリーの中でも特にかわいくて似合ってると思っていたし、ファンの間でも好評なので、この頓珍漢な意見にもこれまたびっくり!当時僕の知っているオードリーファンの失笑をかっていたものです。
 もー、正直こんな人がオードリーのファッション云々言うのは“勘弁していただきたい”!というのはこっちの方!みたいな。

 結局、伝記部分はこれまでに出版された伝記の寄せ集め。それに著者の勝手な妄想を書き加えてさも本当のことのように読者に押し付けるという、これまでと変わらず最悪の書。
 これで原稿代をもらって、印税を受け取るなんて、でっちあげ伝記を書いて金儲けをしたダイアナ・メイチックと似たり寄ったり!

 この著者のオードリー関連の本は、いつもレベルが低く出来が悪いんですが、他の「寅さん」関連の著書もこんな感じなんでしょうか?男はつらいよ!シリーズの本当のファンの方に伺いたいですね。

 この著者のオードリー本はもう3冊目。わかるファンが読んだら、怒りを通り越して失笑もの。
 こんな程度でいいなら、文学的素養のない僕でもオードリーの本が書けそうです。

 著者がよく書いている、「緑の館」や「華麗なる相続人」がオードリーのワーストだという話ですが、この本の出来は「緑の館」なんてメじゃないくらい駄作ですけどね。正直、これを読む暇があったら、「緑の館」と「華麗なる相続人」を10回ずつ観る方がオードリーに酔いしれることができるだけ遥かにマシ!というくらいの駄文。

オススメ度:なし!マイナス1000点!





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この記事へのコメント
私は吉村英夫氏の大ファンです
なぜファンかというと偏屈な批評するからです
怖いもの見たさで次が読みたくなるんですな
吉村氏は共産党の人間で山田洋二と仲がよいので吉村批評は全部オッケーなんです
さすがの天皇山田洋二もヘップバーンには力が及ばなかったんですね
Posted by 山口港 at 2007年11月08日 14:35
山口港さん、初めまして。

そうですか~、山田洋次監督とは仲がよいんですね。
それと山口港さんは吉村英夫さんの文章もお好きなんですね。

でもオードリーに関する本は本当にどうしようもないです。(^^;;;
これらのオードリー本は偏屈だけでは済まないほどの
トンデモ本に仕上がっていると思ってます。
Posted by みつおみつお at 2007年11月08日 20:49
またY氏が出してしまいました
お得意のチャップリン論にローマの休日を絡めた最新作
何考えてるんでしょう
無茶苦茶にも程があります
どんなトンデモ本になってるのでしょう?
失笑ものな論文を本気になって書く・・・・・・そこが魅力なんです
どんなに事実とかけ離れていようとも氏の中では事実なんです
怖いもの観たさで気になってきませんか
Posted by 山口港 at 2008年06月29日 05:36
山口港さん、お久しぶりです!(^-^

はい、その本は出版される前から知ってましたよ。
僕は山口港さんのようには寛大になれないので、
読んでも腹立たしいだけだと思い、
その本は完璧に無視してます。
存在自体がなかったことに、ですね(笑)。

表紙を見ても「ローマの休日」は小さい文字だったので、
おそらくメインではないだろうと。

「ローマの休日」自体が僕の中では
オードリーにとっての絶対でもないですし、
吉村氏の論じてる内容も文体も一度もいいと思ったことがありません。
これは僕には全く不必要な本なんです。
印税に協力する気も毛頭ありませんし。(^^;
Posted by みつおみつお at 2008年06月29日 21:20
ご存知だったのですね
私も印税に協力するつもりはありません
もちろん必要な本でもありません
でも本屋に置いてあったら立ち読みします
私は何故こんな人がオードリーの本を出せるのか
その謎を知りたいと思うのです
映画「ローマの休日」は私にとってオードリーファンになった入門書的な作品です
オードリーを好きになる第一歩とし最適な作品だと思ってます
でも一番すきなのは 「ティファニーで朝食を」なんです
Posted by 山口港 at 2008年06月30日 18:05
>山口港さん

おお~、立ち読み!その手がありましたか!
確かにY氏のオードリー論は際物の極致なので、
なんでこんな人がオードリーの本を出せるのか
全くのナゾなんですが…。

でも立ち読みと言えども腹立たしい内容に
きっと変わりはないんでしょうねー。
読むんじゃなかった!と後悔している僕が目に浮かぶようです(笑)。

それと、山口港さんの一番は「ティファニーで朝食を」ですか!
ほんとにホリーはオードリーの一世一代の当たり役ですよねー!(^-^
オードリーっていろんな意味で、頂点をいくつも持っている女優さんだと
思うんですが、
「ティファニーで朝食を」も間違いなく頂点の1つですよね!
Posted by みつおみつお at 2008年07月02日 00:23
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